家具における「曲木」という技術の歴史

皆さんこんにちは。

今回は、家具における「曲木」という技術の歴史について学んでみたいと思います。

「曲木」とは、家具の世界で言えば、主に椅子の木フレームのデザインを形作るのに使われる技術です。
無垢の木材を、高温の蒸気で蒸して塑性を増大させ、そのまま金型にはめて乾燥させることで、望みの曲線を持つ材にしたものを指します。

さて、木を曲げるというのは、いつ頃から行われるようになったのでしょうか。
それは、19世紀の前半頃から、同時期的にヨーロッパの各地で少しづつ行われるようになっていったそうです。

たとえば、1810年には、車大工メリハル・フィンクが薄板を曲げる方法を発明しています。また1826年、イギリスのイザーク・ザーゲントが、板を湯で煮るか蒸すかをして柔らかくし、日陰で乾燥させるという方法をとって成功しています。
もっとも、この場合薄い一枚の板しか曲げられず、材料もトネリコ材に限られていました。
さらに1830年、アメリカのエドワード・レイノルズが、木を曲げる機械を発明します。ただし、この場合もいわゆる「曲木」の観念がまだ徹底していなかったため、単板を曲げる作業を機械に置き換えたに過ぎませんでした。

このように19世紀前半頃に、何人もが同じように機械的に木を曲げる方法を考案しましたが、いずれもレイノルズの方法と大同小異で、根本的にはなんら改良が見られないままに終わってしまっていました。

しかしその頃、現在のドイツの片田舎で、発明家でも技術者でもない一人の職人が、木を曲げることによる技術的・経済的な可能性を求め、その完成に向かってひとり工夫を凝らしていました。
それが現在も「曲木家具の生みの親」との呼び声高い、ミヒャエル・トーネットその人なのです。

・ミヒャエル・トーネット
1796年7月2日~1871年3月3日
家具デザイナー・実業家
曲木技術の発明者・トーネット社の創業者

 

1796年7月2日、現在のドイツのボッパルドに生まれたミヒャエル・トーネットは、貧乏な父と同じなめし革職人になるのを嫌い、木工芸の技術を身につけようと建具屋に弟子入りします。

その後1819年に独立。優れた技術と適正な価格で商売を着実に広げていきましたが、やがて供給が間に合わなくなっていきました。
機械設備を導入する資金の無いトーネットは、あくまで手工業という枠の中で、増産方法を考えなければいけなくなりました。

そこで1830年、トーネットは二枚の薄板を膠で煮て貼り合わせたものから、家具の部品製作を初めて試みます。
そしてそれが発展し、薄板を重ね、椅子の前脚と後脚を引き延ばして背の部分につなぐという、一体化した製作の試みも行いました。
その中で、材料を膠で煮ることにより柔らかさを増して曲げやすくなり、また接着も可能なことも判明していきました。

その後、1842年には主に合板での曲木の特許を取得し、その成型技術をもとに、水蒸気の作用を応用して無垢材を曲げる曲木家具の開発を進めていきます。

こうして、技術の発展と、それに準じて作業の分業化等による効率化を図って生み出されていったのが、以下のようないわゆる「トーネットチェア」と呼ばれる椅子です。

曲木によって描かれる、有機的で美麗な曲線には目を奪われます。
これにさらに、木の温かみや、木目のもつ視覚的な美しさが加わるのは、木材という素材を使用しているからこそのものです。

 

そして現在、曲木の技術は職人によって広く世界に広まりをみせています。
BRUNCHで取り扱っている椅子にも、曲木の技術が使われている椅子が沢山あります。

・CH-0178 ダイニングチェア

 

・CH-0156 ダイニングチェア

 

・CH-0179 ダイニングチェア

分かりやすい物だけでもこんなにありますが、他のほとんどの椅子にも、例えば少し湾曲した背もたれの部分などに、曲木の技術は沢山使われています。

 

今回は、今は広く使われている曲木の技術について学んでみました。
この技術がもしトーネットによって生み出されていなければ、今ある椅子の大半はもしかしたら存在しなかったかもと考えると、とても意義のある発明であったと思います。

皆さんも、お持ちの椅子、これからご購入を考えている椅子があったら、どんなところに曲木の技術が使われているか、見直してみるのも面白いかもしれませんね。

それでは、今回はこんなところで。