日本三景のひとつとして知られる、瀬戸内海西部の広島湾に位置する「安芸の宮島」こと、厳島。
古くから島全体が自然信仰の対象として崇められ、現在では国内外を問わず年間400万の人々が訪れる景勝地です。
この島に鎮座するのが、国宝・重要文化財に指定され、ユネスコの世界文化遺産にも登録されている厳島神社。
満潮時には「海に浮かんでいるように見える」朱塗りの社殿が美しいこの神社は、593年に豪族・佐伯鞍職(後の厳島神社 初代神主)が創建し、1168年に平清盛によって造設され、現在の大規模な社殿の原型がつくられたと言われています。
島そのものが「神が宿る御神体である」という由来に基づいて、海も山も活かすよう島全体を捉え配された社殿群が、素晴らしい景観を見せてくれます。
随所に散りばめられた平安時代末期の建築様式は現在も保たれており、当時の建築を知る上で貴重な遺産として、とても見どころの多い神社です。
そして、そのシンボルと言えば、木製の巨大な「海に浮かぶ大鳥居」。
現在の大鳥居は、平安時代から八代目にあたり1875年に再建されたもので、その大きさは、高さ約16メートル、長さ約24メートル、そして重さは約60トン!
遠くから見てもその大きさに圧倒されますが、引き潮の時間帯に間近で見るとまさに圧巻!です。
普段目にする一般的な鳥居と異なるこの形状は、主柱の前と後ろに袖柱を建て、その上下2か所を貫でつないだ「両部(りょうぶ)鳥居」や「四脚(よつあし)鳥居」と呼ばれるもの。
そして、主柱と袖柱あわせて6本の大木と、上部の笠木・島木の中に設置されている箱の中に詰められた大量の砂や小石、その重みだけで何百年もの間、海の中に「自立」しているのです。
鳥居の各柱は海に埋められていません。
海底の地盤に松の丸太の杭を打ち立てた「千本杭」と呼ばれる基礎の上に、柱が「置かれているだけ」という構造。
それでも、波や雨風はもちろん、地震や自然災害にも負けないのです。
文字通り「海に浮かぶ大鳥居」!
こうした先人達の知恵と技術力には唸らされるばかりですが、絶えず海水に晒されるなか朽ちることなく、今なお荘厳とした堂々たる姿で燦然と輝いていられるのは、素材として使われている「木」のおかげでもあります。
2本の主柱の周囲は、約10メートルにも及びます。
樹齢500年以上・根元の直径が10メートルを超えるクスノキの自然木が使われています。柱をよく見ると、それぞれの幹の自然のかたちが見て取れます。
【クスノキ】
クスノキは、日本では関東以西に分布するクスノキ科クスノキ属の常緑広葉の高木です。
樹高30メートルに達するものや樹齢1000年を超えるものなど巨樹となる個体も多く、古くから信仰の対象として神社などに植林されてきました。
成長が早く寿命も長いため各地に大木が残っており、その風格に満ちた佇まいと歴史から「御神木」として知られる木、天然記念物に指定されている木が多く存在します。
木の各部から独特の芳香を放つクスノキは、その昔「臭し(くすし)木」と呼ばれ、その名の語源となったとも言われています。
この香りの正体は、昔から防虫剤として有名な樟脳です。
葉と材から樟脳の原料となるオイルを抽出することができ、また、薬として利用できる成分も含まれています(語源は上記のほか「薬の木」とも言われています)。
木そのものにも防虫効果があり、耐朽力が強く保存性に大変優れているため、建材や仏壇、丸木船などにも利用されてきました。
このように、大木であること(比重が重いこと)、腐りにくく虫に強いことから、大鳥居の主柱にはクスノキが用いられたのです。
そして、主柱を支える4本の袖柱ににはスギの自然木を使用。2種類の木材を使い分けることによって、簡単には倒壊しない設計がなされています。
これほどの建造物を目の前にすると、自然の力だけであらゆるものを創造していた遥か古の時代に思いを馳せてしまいます。そして「木」が持つチカラを改めて感じることができました。
自然木から成る「海に浮かぶ大鳥居」、是非見に行ってみてください。